幼児の歯磨き のど突き事故に注意を

歯ブラシをくわえたまま転倒し、頰の内側にブラシが刺さった幼児の状況(写真の丸の部分)を説明する岩寺信喜さん

歯磨き中の幼児が歯ブラシでのどを突く事故が後を絶ちません。子どもが歯磨きをしながら転倒した事故が多いです。消費者庁などは幼児が自分で歯を磨く時は「安定した場所に座らせ、必ず保護者が見守ってほしい」と呼び掛けています。

事故6割 「歯ブラシくわえ転倒」

消費者庁が全国30医療機関(道内1医療機関)から提供された事故情報を分析したところ、2016年4月~21年3月の5年間に、6歳以下の子どもが歯磨き中にのどを突くなどの事故が120件ありました。年齢別では1歳児が48件と最多。2歳児32件、3歳児23件。1~3歳で87%を占めました。

事故の6割は「転倒」が原因でした。歯ブラシをくわえたままベッドの上で跳びはねて起きた事故や歯磨き中に、きょうだいとじゃれあって転倒した事例もありました。

けがのうち、歯ブラシがのどや頰の内側の柔らかい部分に刺さり、口内に傷ができたり、頸動脈血管の損傷が疑われたりなどして、入院や通院が必要となった事例が6割を占めました。

日本小児歯科学会に過去5年間に報告された事故では、歯ブラシの柄をくわえ座っていた4歳児が倒れ、柄が奥歯のさらに奥の柔らかい部分に刺さって穴が空き、大学病院で縫合措置を受けました。1歳児がボールペンをくわえたまま転倒して深い傷ができ、全身麻酔で縫合した事例もありました。

歯磨き中に起きた「のど突き事故」の例

安定した場所に座らせ見守って

幼児が歯磨きする時の注意点として消費者庁は《1》必ず保護者が見守り、床に座らせる《2》ソファや踏み台など不安定な場所での歯磨きは避ける《3》歯ブラシを口に入れたり、手に持ったまま歩き回らないーを挙げ、注意を促しています。

札幌市の小児歯科専門医、岩寺信喜さん(38)は昨年、歩きながら歯磨きをして転び、けがをした4歳児を診察しました。歯ブラシが頰の内側に刺さり出血。幸い、軽傷で済みましたが、岩寺さんは「喉の奥にある脳や脊髄の周りには神経や血管が多く、歯ブラシが刺さって損傷すると、最悪の場合、神経障害を起こす可能性もある」と指摘。「子どもは大人の動作をまねる。大人が歩き磨きをやめることが大切」と強調します。

のど突き事故を防ぐ幼児用歯ブラシ=札幌市東区、ツルハドラッグ元町店

のど突き事故を防ぐ幼児用歯ブラシ=札幌市東区、ツルハドラッグ元町店

乳幼児用歯ブラシは、のどに入らないようにするための円盤状のストッパーが柄に付いているものや、柄に弾力性があり、頰などにあたると曲がるなど、のど突き事故防止に配慮した商品が多いです。岩寺さんは、幼児がそうした歯ブラシで歯磨きに慣れることは勧めますが「虫歯予防には子供用歯ブラシだけでは不十分。大人が必ず、通常の歯ブラシで仕上げ磨きをしてほしい」と話します。

歯磨き中に転んだらー
細菌多い口の中 出血あれば病院へ

子どもが歯ブラシをくわえたまま転び、けがを疑う状況になった場合、どう対処したらいいのでしょう。日本小児歯科学会の小児保健委員会委員長を務める浜野美幸さん(59)=東京都在住、歯科医師=に聞きました。

日本小児歯科学会 浜野美幸さん

日本小児歯科学会 浜野美幸さん

まず、歯ブラシに血液が付いていないか、口の中に出血がないか確認します。喉の奥に傷があることが多いので、子どもに「ベーッ」と舌を出させて観察し、よく見えなかったら舌の奥を指で下に押してください。頰の内側や上あごの奥の柔らかいところに歯ブラシが刺さることが多いです。

口の中には400種もの細菌がいます。歯ブラシに付着した歯垢1グラムが含む細菌は、同じ量のふん便が含む細菌よりずっと多いとされています。歯ブラシに付いた細菌が傷から体内に入ると、感染症の恐れがあります。出血があれば、歯科や耳鼻科、小児科などを受診しましょう。

その後、2~3日は体調を注意深く観察してください。傷の周囲の腫れや発熱、のみ込む時に痛みを訴えたら感染症を疑ってください。

多くは通院か入院が必要で血管が損傷した事例もあります。のど突き事故はボールペンや鉛筆、針金のハンガー、おもちゃでも起きています。

取材・文/佐竹直子(北海道新聞記者)

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