連載コラム「瀬川院⻑のすくすくカルテ」第34回
乳児の貧血、食事療法で改善? 鉄不足を補う赤みの肉
Q.質問
生後8カ月の長男が初めて熱を出し、かかりつけで血液検査をしたところヘモグロビンが1デシリットルあたり9.9グラムという値で、鉄不足による貧血だろうと言われました。いま離乳食は2回食でよく食べ、母乳もよく飲みます。医師から鉄剤の内服と赤みの肉や魚を食べさせるよう勧められたのですが、なんとなく抵抗があります。普通の食事療法でよくならないものでしょうか。
A.回答
乳児の鉄欠乏性貧血はとても多い病気です。ある研究では9~11カ月児の約2割が貧血で、母乳育ちの子に至っては約3割が貧血だとされます。母乳育ちに貧血が多いのは母乳中の鉄が少ないためですが、その理由として面白い仮説があります。
ヒトの長い進化の歴史の中で乳児が何を食べていたのかを調べた研究があります。今から260万年前から1万年前まで、氷河期にあたる旧石器時代はヒトの食物は乳児を含め動物性食物が主で、農耕が始まった1万年前以降からは植物性食物が中心となりました。動物性と植物性食物の違いとして、前者には鉄や亜鉛などのミネラルが多いことがあります。旧石器時代、乳児は鉄の多い動物性食物を主に食べていたため母乳の鉄が少なくても問題はありませんでした。
しかし、現在のように穀類に代表される植物性食物が主の場合、母乳育ちの乳児は鉄不足になってしまうというのです。母乳は乳児が鉄の多い食物をとっていた時期に適合し進化したものだというのです。
お母さんに離乳食の中身を聞くと、おかゆ、野菜、鶏のささ身、白身の魚などの標準的な内容でした。しかし、これでは鉄が不足しています。鉄剤投与をお母さんはしぶったので、鉄の多い赤みの肉の摂取を勧めました。そして3カ月後に診ると、なんとヘモグロビンは1デシリットルあたり11.3グラムと正常になっていました。お母さんに尋ねると、レバーペーストや赤みの肉を工夫して毎日食べさせたそうです。食事だけではなかなか貧血が改善しないことが多いので、お母さんの頑張りには心より敬服した次第です。
(瀬川雅史=のえる小児科院長)
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